一般社団法人 先進路面摩擦データベース研究組合

CAR-FD発足にあたって

 自動車の運動特性は路面摩擦特性に拘束されるためその安全性に大きな影響を与えるが,実路における摩擦特性データはほとんど整備されていないのが実情である.勿論,世の中では計測装置等が構築され,定期的に計測が行われて道路の補修等に用いられているが,これら道路を実際に使用するユーザや車両開発やタイヤ開発に関わる自動車メーカ,タイヤメーカにはこれらデータが全く展開されていない.そこで,自動車やタイヤ等の開発のため,独自にテストコース等を構築し,世の中に存在するであろう種々の路面を再現し,さらには雪氷路等までをテストコース上に再現し,安全性向上の観点から開発が行われている.しかし,天候,温度等環境変化による路面特性が大きく変化し,さらに舗装技術や材料特性の進歩等によりその特性は変化するため,実路での摩擦特性計測と環境情報の関係を把握し,その値を安全性へ還元することがより一層重要となっている.

 かたや,ユーザは自動車のハンドルを握ることにより種々の責任が生じ,環境変化と路面摩擦の関係を経験的に獲得する必要があり,一度事故に繋がる場合には,その責任はドライバが取る必要がある.その意味から路面摩擦に依存する支援が重要となり,ABS,TCS,ESCと呼ばれるシステムが開発れ,安全性に大きく貢献してきた.しかし,これらフィードバック制御をベースとするシステムには限界があり,フィードフォワード情報として現在走行している道路の前方路面摩擦特性に関する情報が得られれば,安全性向上に大きく寄与するものと考えられる.

 他方,近年,高度運転支援システムが普及し,準自動化が進んできており,さらに各国で自動操縦車両が計画されており,我が国でも各省庁で種々のプロジェクトが実施されている.今後,これら自動操縦車両の自動化レベルがさらに上がることにより,安全性確保の面からいかに路面情報を取るかが非常に重要な課題となる.現在,これら自動操縦車両に対するデータベースとして詳細なデジタル地図が構築され始め,これらを基に自動操縦車両の運行が計画されている.この場合,外部環境によって障害物回避性能を確保する必要があるが,このような模擬実験を行ってみると,ファミリーカーと呼ばれる車両であっても,1Gを超える横方向加速度が発生することがあり,ほぼ路面摩擦特性の限界付近まで使用していることになる.このような安全性確保の観点から上記デジタル地図情報だけでは不十分であり,これらとリンクする路面摩擦データベース構築が必要となる.今後,このようなデータベースの円滑な利用により,自動操縦車両の安全性は格段に向上するものと考えられる.

 これらの目的から,AI等を用いた路面摩擦推定システム構築が期待されるが,このためには広範にわたる実路の計測データと環境情報との関係を把握する必要が有り,この目的からも,早急にこのデータベース構築が必要となる.

 このような目的から,このたび,一般社団法人先進路面摩擦データベース研究組合を構築し,新たな計測装置構築を含め,我が国独自の研究をスタートさせることとした.このようなデータベース構築のためには,できるだけ広い研究領域から,多くの研究者・技術者の英知を集約する必要があり,本研究組合に多くの研究者・技術者のご参加を期待する次第である.

 

一般社団法人 先進路面摩擦データベース研究組合
代表理事 工学博士 景山一郎

景山一郎
代表理事 工学博士 景山一郎
略歴
1977年3月 工学博士
1977年4月~2020年3月 日本大学勤務
1989年8月~1990年9月 オランダ・デルフト工科大学客員研究員
1994年4月~2020年3月 日本大学 教授
2004年4月~9月 スウェーデン・国立道路交通研究所(VTI)客員研究員
2014年4月~2020年3月 名古屋大学客員教授
2020年4月~現在 CAR-FD代表理事
2020年11月 日本大学名誉教授
 
学会活動 (公社)自動車技術会フェロー
(社)日本機械学会フェロー,他